熱中症対策

毎日新聞記事

 もうすぐ夏本番。熱中症で救急搬送される人は年々増え、ほぼ半数は65歳以上の高齢者が占める。重症だと死に至ることもあるが、正しい知識を持てば事前に予防でき、適切な対処で症状も改善する。今からできる対策は…。

 「夜寝ていて、汗をびっしょりかいてしまうのですが、水を飲んだ方がいいですか」

 「あまり水分をとらない母に飲ませるための声がけの仕方は?」

 今月2日、東京・新宿の都営住宅「戸山ハイツ」の一角にある「暮らしの保健室」で「熱中症・脱水予防講座」が始まった。同団地は高齢化率40%を超える。初日は団地や近所に暮らす高齢者約10人が参加し、看護師に熱心に質問をしていた。

 この保健室は、長年地域で訪問看護に取り組んできた「ケアーズ白十字訪問看護ステーション」が2011年に開設した。同時に予防講座も始め、医師や保健師などの専門家が熱中症になりやすい環境や身体状況、水分補給についてわかりやすく説明している。室長の秋山正子さんは「講座を始めた頃は重症化する人が多かったが、最近は脱水状態に早めに気づき、対処するようになったので、病院に搬送される人が少なくなってきた」と話す。

 ◇一気に重症化

 東京都健康長寿医療センター研究所(板橋区)の「福祉と生活ケア研究チーム」の野本茂樹さんは「高齢者は熱中症になりやすく、重症化しやすいことを自覚し、夏を乗り切る工夫が必要」と話す。

 熱中症は3段階に分けられる。<1>の場合は涼しい場所に避難し、首筋や脇の下、太ももの付け根に冷たいペットボトルなどを当てて体を冷やし、スポーツドリンクなどで水分を補給する。<2><3>の状態になったら、速やかに救急車を呼んだ方がいいという。

 「高齢者は30分くらいで一気に軽症から重症化することがあるので、早めの対応が必要です」と野本さんはアドバイスする。

 なぜ、高齢者は熱中症になりやすいのか。主な理由として、老化に伴い、暑さや寒さを感じる皮膚のセンサーが鈍くなる▽汗腺が萎縮し汗が出にくく体温調節がスムーズにできない▽脳の深い部分にある浸透圧感受性が鈍感になり、喉の渇きを覚えにくくなる▽体内の水分量が50%(新生児70%、成人60%)と少ない−−などが挙げられる。

 予防するには、各自の自己管理が大切だ。温度計を見やすい場所に置き、28度を超えたら窓を全開にして風を通したり、扇風機やクーラーをつけたりして、28度以下に保つよう気をつける。また長袖、長ズボンの人は半袖、半ズボンに着替えて体温を下げるようにする。

 さらに欠かせないのが、こまめな水分補給。水に砂糖、塩を入れた「経口補水液」なら、自分でも簡単に作ることができる。汗をかいた時はスポーツ飲料、あるいは0.1〜0.2%の食塩水などを飲み、運動、散歩、庭仕事などで外出する時や、入浴、就寝前にもコップ1杯の水を飲むよう心がける。

 ◇常に体の状態意識

 脱水症の予防法や対処の知識を知ってもらおうと、12年、医師や看護師など専門家9人が「教えて!『かくれ脱水』委員会」を設立した。「かくれ脱水」とは、体液の1〜2%が失われ、脱水症の前段階になっているのに本人が気づかない状態だ。同委員会が昨年5〜8月、高齢者400人を対象に臨床研究を行ったところ、「かくれ脱水」は23%に上ったという。さらに、食生活や自覚症状、生活環境など6項目について聞き、かくれ脱水になりやすい人を診断するチェックシートを作成した。

 同委員会副委員長で神奈川県立保健福祉大教授の谷口英喜さんは、日常的に「かくれ脱水」状態になっている高齢者は多いと指摘する。「規則正しい食事、十分な睡眠は熱中症対策の大前提。そのうえで、チェックシートで常に自分の体の状態を意識し、適切に水分をとるようにしてください」と話す。【小川節子】